2011/10/06

星の降る丘

 なかなか寝付けなかったのにもかかわらず、6時に起床して7時には出発していました。朝日に輝くカテドラルこそ至高、と勝手に決め付けていたため夜明け前の道を走ります。なかなか太陽が出てこないので、時間調整のためにバルに寄ってコーヒーをいただきます。走り始めてちょっとすると霧雨の模様になってきました。あちゃー、到着日が悪天候なんてしまりが悪すぎる! ちょうど日の出の時刻となる8時ころに最後の山越えをしてサンティアゴ市内を一望する丘「喜びの丘」に到着です。むむ、ガスってしまってカテドラルがまったく見えません。がっかりの丘を後にしてカテドラルのあるサンティアゴ市内に入ります。

 カテドラルのある広場まで石畳の路地を走っていると、これまでのことが思い出されます。ロシアトレーラー事件やグリーンカードで困ったこと、いろんな人に助けられたことなどなど。さすがにぐっとくるものがあります。細い道を右へ左へ曲がって広場に出ると、2つの尖塔をもつカテドラルが現れました。仏アミアンのノートルダム大聖堂のほうが規模が大きく華やかです。モスクワのワシリーのように個性的でもありません。それでもサンティアゴのカテドラルはこれまでに見てきた数々の世界遺産に劣らずすばらしいものに思えました。1時間くらい広場に座ってカテドラルや巡礼者を眺めながら、やればできるものだな、とつぶやいていました。言葉に表せないのが歯がゆいですが、この瞬間は間違いなく最高でした。

 記念撮影をして観光案内所を探します。巡礼事務所もあり、スタンプがもらえないかなと立ち寄ってみましたが、巡礼証明書の発行待ちでごった返しています。そこまでしてスタンプが欲しいわけではないので、市内を散歩することにします。

 どうしたわけか、市内を散歩しても「ふーん」という感じであまり面白くありません。駐車場がある手ごろな宿もないので、喜びの丘にあるYHに宿をとることにします。YHに行って巡礼者割引ができないか試しに聞いてみると、フロントの姉さんがおやという顔をして、どこで手に入れたのか聞いてきます。SJPPの巡礼事務所でもらったんだけど、まずいかな。
「ちょっと問題だね。徒歩か自転車、馬での巡礼者のみが手にできるんだよ。あなたは巡礼者(ピルグリム)とはいえないよ。」

 薄々気づいてはいましたが、巡礼終点地でこうもばっさりやられるとは! はっきりと「違う」といわれたこともさることながら、馬ならOKという事実がショッキングでした。そのようなやんごとなき方がいるのだろうか。

 “コンポステーラ”は「星の降る丘」という意味だそうです。この丘の上からならさぞかし綺麗なんだろうな、と思っていましたが夕刻からは曇りなのでした。カテドラルに到着した瞬間は最高の気分でしたが、それ以降はどうもいろいろと脱力感に襲われています。

2011/10/05

サンティアゴ東方60Km

■山越えルート
 宿を8時に出発してサンティアゴに向かいます。サンティアゴまで約200Kmなので、通常通りの走りで夕方には到着してしまいます。せっかくなので巡礼者の気分をもう少し味わってうためにゆっくり走ることにします。
 昨日の宿はちょうど山越え前の地点だったらしく、出発早々に上り坂が続きます。標高1,300mの峠を越して下り坂になりますが、その後1,100mまでまた上ることになります。歩きだったらピレネーがかわいく思えるかもしれません。山また山を越えて、川を渡り、谷あいに佇む教会の脇を走ります。巡礼者用に用意された水場でお茶をいれて休憩をとり、ほっと一息。この道を歩きとおす巡礼者たちは本当に見上げたものです。

日本でもおなじみのチュロスはチョコレートドリンクとセットが基本らしい。ディップして食すのが正当だとか。

しぶいホタテのマークは巡礼案内所。








■フライドポテト
 手ごろなレストランで昼食です。短いパスタが入ったスープと、メインは食感がタラによく似た魚の煮付けです。付け合せはゆでたポテトです。とうとうフライドポテトに出会わずにすみました。全体的にあっさりめの味付けで、いなければいないで少々ものたりなく感じるのもフライドポテトのニクいところです。


■イレギュラー?
 宿を探しながら走るうちにコンポステラまで60kmのところに到着しました。約150Kmほど走ったので、徒歩なら5日はかかる距離です。情報局で宿を紹介してもらいチェックインします。受付にバイクをどこに置いたものかと相談すると、巡礼者手帳を何度か見直して驚いたような顔をしています。「本当は徒歩か自転車の巡礼者用の宿なんだけど…」と釈然としない様子です。もしかして、本来ならばバイクや車で巡礼者手帳を入手することは不可能なのでは!? とはいえ、SJPPの人が作ってくれたので胸を張って利用することにします。

 宿のラウンジで日記を書いていると、巡礼者たちが集まって酒盛りを始めました。お祭り騒ぎのようににぎやかで、こちらにもワインを手渡してきます。せっかくなので相伴にあずかります。昨日の山越え前では巡礼者は穏やかで早々に寝ていたので山越え後でだいぶ顔つきが変わっているように感じます。「サンティアゴまであと2日の距離になったんだ、クリスマス2日前のようにみんなハッピーなのさ」 隣にいたドイツ人が解説してくれます。

 明日はとうとう目的地のサンティアゴ・デ・コンポステーラに到着です。どんな感動が待っているのだろう! 酒が入ったこともあってなかなか寝付けないのでした。

2011/10/04

レオン西方40Km

■開かずのツーリストインフォ
 他の宿泊客のいびきやら不気味に咳き込む音やらで何回か起こされます。これぞドミの醍醐味ですね。朝7時ころに他の皆さんはごそごそと活動を始まるので、こちらものそのそと準備にかかります。朝食を済ませて皆より遅めの8時前に出発開始です。8時とはいえ、まだ日が昇っていません。走り始めて15分ほどでミラーに日の出が見えてきました。せっかくだし寒いので写真撮影をして遊びます。30分ほど楽しんで走行再開。いくつか巡礼拠点=スタンプポイントを通りますが、スタンプがおいてある巡礼情報局はまだオープンしていません。飲食店を除くと、10時オープンが暗黙のルールのようです。

 ふてくされながら走って11時半ころにレオンに到着。ここはカテドラルが有名だそうです。旧市街の入り口付近は観光客向けの露天が立ち並んでいます。アラブスカーフなどの布類やお香などイスラムを連想させる品々があります。チーズやケーキ、スペインならではのチュロスとチョコレートドリンクも目立ちます。見上げるとさまざまな紋章が書かれた垂れ幕があちこちにかかっています。片足立ち獅子のレオン紋章、細い十字のサンティアゴ騎士団紋章、なぜかドイツ騎士修道会やフランス王室のユリをあしらったものも見かけます。露天地区を通り抜けてツーリストインフォを目指します。時間は12時過ぎだったのですが、閉まっていました。うーん、いつ開いているというのだ。スタンプ集めも楽ではありません。


■あきらめた
 一通り見学して次の街を目指します。レオンから西方30Kmほどの巡礼路上にアストルガというガウディの建築物が残る街を目指します。14時半ころに到着して適当なレストランで昼食をとることにします。庶民的レストランはまずバルスペースがあり、その奥にレストランスペースで区切られているのがスペイン流のらしい。Menu del dia(本日の定食)と告げるとお品書きを持ってきます。他の客が焼き魚らしきものを食べていますが、そこにもちゃんとポテトがいました。肉でダメなら魚で回避…というのは幻想でした。ここはあきらめて牛肉ステーキの胡椒ソースにします。一品目は海鮮スープで、タピオカみたいなものが入っています。お代わりもできて満足です。
写真=アストルガのカテドラル

■アルベルタ
 食後に街中を散策します。ゆっくり食事をしたにもかかわらず、ツーリストインフォは午後休みでまだ閉まっています。日本で働いていたときはシエスタうらやましいなぁと思っていましたが、客の立場になったらこれほど不便な習慣はありません。彼らからすると、日本の習慣がせっかちすぎる、ということなのでしょうか。そんなわけで格安巡礼宿を紹介してもらう目論見はついえてしまったので次の地点を目指します。メインの街道を捨てて巡礼者の道の近くを走る細い道を西へ向かいます。20Kmほど走って宿場町が出てきます。表の看板には5ユーロの文字が! 迷わずここに泊まることにします。昨日は現役の教会を利用した宿でしたが、今日の宿は個人経営のものです。巡礼路にはこのような宿(アルベルタ)が点在しています。これまで見てきたところでの最安値は2ユーロのものでした。元が取れるのか不思議でなりません。
写真=とってもアットホーム

2011/10/03

レオン東方100Km

■もったいない!
 昨日とは打って変わって朝は冷え込み、朝9時ころまでは気温10℃を下回るくらいでした。空気が乾燥しているせいか、日向と日陰では体感温度がだいぶ異なってきます。山間部を走りぬけ、巡礼路に程近いN12でブルゴスを目指します。中世に建てられた教会や、ローマ時代から残る建築物、スタンプ収集のために寄り道しながら昼過ぎにブルゴスに到着します。ブルゴスは迂回してレオンへ向かいます。後で知りましたが、ブルゴスはなかなか観光スポットがあったようでもったいないことをしました。ブルゴスからはN120に乗り換えてレオンを目指します。N120は若干巡礼路から離れるルートですが、それでも古い教会や城がある小さな街が迎えてくれます。
写真=ホタテが食べたい

■フライドポテト回避ならず
 スペインでは14時過ぎから昼食が始まるらしく、時間を見計らって道路沿いのレストランにて昼食です。スペイン語はまったく勉強していなかったので、ひとまず本日の定食を注文します。が、定食といっても前菜、メイン、デザートをそれぞれ5種類くらいの中から選べる方式になっており、スペイン語メニューを差し出されて逃げ道を失いました。FriteやPotetoなどフライドポテトを連想させる文字を排除しながら適当に注文。前菜は日本でもおなじみのツナサラダです。ドレッシングらしきものがかかっていますが、オリーブオイルか酢を好みでふりかけていただくのがスペイン式だそうです。ためしにオリーブオイルをかけてみますが、なかなか良いものです。続くメインは子牛のタン煮にフライドポテト添えです。くー、こやつらと出会わない方法はないものか! ポテト回避の方法を見つけねばなるまい。決意を固めながら牛タンをほおばるのでした。食後のプリンとエスプレッソをいただいて10ユーロならばなかなかお得なランチといえるのではないでしょうか。
写真=タンは焼いたほうがいいと思う

■巡礼宿
 食事を済ませて巡礼者手帳に書かれた街carrion de los condesを目指します。到着してスタンプがおいてありそうな教会に行くと、ここは宿泊施設を兼ねているということでした。12人ドミでなんと5ユーロです。ちなみに個室なら21ユーロです。いいところ見つけたなとほくほくして転がり込みます。足のマメを気にしている徒歩巡礼者や、Tシャツを洗っているチャリ巡礼者などが集まっています。彼らに比べるとバイクは楽しているように感じられて勝手に肩身が狭くなるのでした。夜は静かで巡礼宿もいいものです。
写真=朝6時から鐘を鳴らしまくる教会

2011/10/02

エスティーリャ

■引きこもる
 値段の安さにつられて連泊することにします。天気もよく、洗濯日和なのでここぞとばかり洗濯物を片付けます。洗濯機を回している間にskypeやら日記の更新やらをして過ごします。

■初バル
 14時ころバルにて食事。前菜一品にメインのプレートで8ユーロ也。前菜はほうれん草の茎みたいなところとポテトを煮込んだものでとってもマイルドな味わいです。久しぶりにまともな野菜料理を食べたような気がします。メインのプレートは豚のソテーにフライドポテトを添えたものです。ポーランドから西はプレートにはフライドポテトが添えられることが多い、というよりほとんどです。そろそろポテトにも飽きてきました。

2011/10/01

ピレネー山脈

■コンポステラへの道
 キャンプ場を出発して、サン・ジャン・ピエー・ド・ポー(以下SJPP)へ向かいます。遠くにピレネー山脈がそびえ、なだらかな丘の合間を走ります。バックパックを背負って杖を突きながら歩く人や、ロードバイクを駆る人たちを横目に見やりながらしばらく走ると、ホタテ貝をモチーフにしたコンポステラのシンボルを発見! ボルドーからここまでも巡礼路のようでしたが、このマークを目にすると実感がわいてきます。

 SJPPはフランス側の巡礼路が集結する、ピレネー越えの拠点のだそうです。このほかのルートもあるようですが、それはまたの機会に譲ることにしましょう。出発から40Kmほどで丘の中腹に建設された街が見えてきます。SJPPに到着です。欧州に入ってから平地を走ってきたせいか、斜面に沿ってできた街並みは新鮮に感じられます。

 その昔はピレネー山脈に向かって開かれた「スペイン門」をくぐって山越えが始まったようです。ちなみに、フランスのパリからスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラまでの巡礼路は世界遺産に登録されています。道それ自体が世界遺産になっているのは珍しく、あとは日本の紀伊山地の参詣地くらいだそうです。



■旅人から巡礼者へ
 まずは巡礼路の情報を集めるために観光情報局を訪ねると、スタッフのみなさんが暖かく迎えてくれます。ピレネー越えのルートには徒歩ルートと車道があり、徒歩ルートは車はもちろんのことバイクも入ることはできないらしい(走るなんてとんでもない、というハードなルートだったようです)。バイクで日本から来たことを知ると質問攻めと写真撮影が始まり、「彼女はワシントンポストの人だ」と記者と思しき人を連れてくるなどいたく珍しがられたのでした。

 コンポステラまでのルートを聞くと、巡礼者手帳をくれました。キリスト教徒じゃなくても巡礼者になれるものなのですね。この手帳はスタンプ帳を兼ねているようで、「第一歩だ」といってSJPPのスタンプをどすんと押してくれます。お、なんだか道の駅スタンプラリーみたいだぞ。ジップロックをつけてくれる気遣いがとてもうれしい。SJPPでは中世スタイルの杖や帽子など巡礼者グッズのほか、最新のアウトドアグッズが売られていて売店をのぞいているだけでもなかなか楽しいものです。思う存分冷やかした後にピレネー越えに出発です。

■ピレネー越え
SJPPからスペイン側の拠点・パンプローナまでは約60Kmの道のりです。道の状態はかなり良く、バイクや自転車がかなり攻める走りをしていました。標高約1,050mの峠でも気温は15℃くらいと比較的暖かく、雪を気にしていたのが馬鹿らしくなるほどでした。山越え中とはいえ、10Kmおきに小さな村が点在しています。バーやレストラン、スーパーまであるので徒歩巡礼にはうれしいことでしょう。峠道を終えてパンプローナに近づくにつれて岩肌が目立つようになりました。フランス側は緑が多く、道も森の中を走っているかのようでした。さらにスペイン側は日差しがきつく、山脈を越えるだけでこれだけ違うものなのかと驚きます。

 パンプローナをパスして巡礼路を追うことにします。ホタテマークが指し示す方向を行くと、道の脇にぽつんと教会が建っています。寄ってみると、教会の門は閉まっていますが、その脇にある小屋(といっても石造りの立派なもの)の前にスタンプ台が置かれています。小屋の中は徒歩巡礼者のための休憩室を兼ねた情報所になっていました。さっと見学して走り出すと、道は小さな街の中に吸い込まれていきます。道を追っていくと、ツーリストインフォメーションを発見しますが、時は16時で書き入れ時のはずなのに閉まっていました。これがかの有名なシエスタか…!

■巡礼者手帳の効力
 こちらもそろそろ宿を探さないといけないので次の街に向かいます。寄り道しながら1時間ほど走り、エスティーリャに到着します。ツーリストインフォメーションでフリーマップをもらって、YHの場所を確認すると「あんたピグリムかい?」と聞かれます。ピクミンは架空の生物、ピオリムは素早さ向上だ。詳しく聞いてみると巡礼者のことをピグリムといい、巡礼者手帳を提示すれば特別料金でYHを利用できるらしい。YHに行ってみると、やはりピグリムか聞かれます。手帳を差し出すと1泊9ユーロ*と破格の値段になるのでした。巡礼者手帳をくれたSJPPのスタッフに感謝! 4人部屋をひとりで占有してゆっくり過ごすのでした。

*ピグリム価格にシーツ代は含まれていないので寝袋必須です。なぜか枕カバーだけはもらえます。